「全豪オープン本戦に出るのは、2年ぶりですね」――。

 日比野菜緒にそう声を掛けると、「えっ? そんなに最近のことでしたっけ?」と、意外そうな声が返ってきた。

 世界ランク138位だった1年前は、予選決勝で敗戦。2年前は、やはり予選決勝で敗れたが、ラッキールーザーとして本戦に上がっていた。ただその時の記憶は、本人の中ではどこか“ノーカウント”扱いだったのかもしれない。

 現在の日比野のランキングは、92位。グランドスラム本戦へのダイレクトインは、2021年8月の全米オープン以来のことだ。
 
 2024年シーズンの幕明けは、オーストラリア・キャンベラのWTA125チャレンジャー(女子テニスの準ツアー大会)で迎えた。単複に出場し、いずれも結果はベスト8。その後はメルボルンに移動し、会場で練習とトレーニングを重ねてきた。

「グランドスラム会場で、ゆっくり準備できるのは久しぶり。前哨戦で5試合できたので、試合勘をつかめたのも大きい」

 そう語る口調には、喜びに達観の音色も交じる。初めてグランドスラム本戦の舞台に立ったのは、8年前の21歳の日。浮き沈みを経験しながら、今この場所に立っているその事実への、穏やかな矜持が凛と響いた。
  今、充実の日々を過ごせているのは、7カ月後に迫ったパリ・オリンピック出場が大きなモチベーションになっているからだとも、日比野は言う。

 初めて出たオリンピックは、2016年のリオ大会。その後は東京オリンピックを1つの目標とし、実際に日の丸を背負い有明のコートに立った。

 だが、その時の彼女の目に映ったのは、無人の観客席。コロナ禍のなか、開催そのものを巡り世論が割れたジレンマのオリンピックは、彼女が思い描いた夢舞台とはあまりにかけ離れていた。

 処理しきれない葛藤を抱え立ったコートでは、不甲斐ない自身のプレーに涙する。

 それから、2年半。「とても良いテニス人生ではありますが」と前置きした上で、日比野が述懐した。

「思い返した時、一番に思い浮かぶ後悔は、東京オリンピックでのプレーです」

 オリンピックに残した悔いは、オリンピックでしか晴らせない――。そのような思いこそが、彼女をパリへと掻き立てる原動力だ。

 「パリ・オリンピックでベストパフォーマンスがしたい。それが終わった後に自分がどう思うかは、まだわからない」というのが、彼女の現在地。6月上旬に閉幕する全仏オープンが、オリンピック出場当落線を引く最後の大会となる。

 その地点に向けた全豪オープンの初戦の相手は、世界8位のマリア・サッカリ。開幕初日(1月14日)2試合目のセンターコートが、ラストスパートのスタートラインだ。

現地取材・文●内田暁

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